表紙をめくるとタイトルが現れて。
その中表紙のデザインが、ネイビー×シルバー。
配色の中で一番好きな組み合わせ。もうこの時点でこの本は好き。
光が溢れ、水が草を育み、水蒸気が空に立ち昇っていく。
緩やかに流れる川は曲がりくねって進み、その水面に陽光の輝きを乗せて海へと至る。
いっせいに鳴き出した無数のハクガンの声に驚いて、脚の長い鳥たちがゆったりとした優雅な動きで舞い上がる。
『ザリガニの鳴くところ』 著 ディーリア・オーエンズ
そんな湿地で暮らす一人の女性の物語。
未開の地が舞台で、湿地での日の昇り方、鳥たちのつまぶき方、鹿たちの警戒の仕方など。
そこに暮らしていないと知り得ない情報が散りばめられていて、とても新鮮。
文字通り母なる大地の上で暮らし、友達はカモメ、サギ、カメ。
友達が動物のみって、、、興味深い。
確かに人間という生き物は、至極めんどくさいからね。
主人公は、他の人間とは違う形で地球やそこに生まれる命と結びつき、大地に深く根を下ろす生き方をしている。
耳を澄まさなくても、自然の息吹に囲まれて。
それだけで脳が癒される。
動物や鳥たちとの会話に疲れた心が、じんわりほぐされる。
圧倒的な自然の中で生きている温度感が、たまらなく心地よくて。
人間の人間たらしめるものが、あぶりだされて。
人間である己にも嫌気がさすけど。
湿地の少女のように、たった一人で生きることを強いられたら。
きっと、そちらへは行けない。
嫌気がさすけれども、人間世界にとどまってしまう楽さの沼から、あえて抜け出さない。
私はそういう人間である。
ゆえに、知らないことだらけの主人公の生き方に様々な驚きをもらった。
どこまでも美しい湿地の環境に身を投じたかのような、清々しい気持ちで読み進められて。
この本は、とにもかくにも心が心地よい。
今の時代に、必要な読み物だと思う。
2021年度本屋大賞翻訳部門第一位。
でしょうね。まったくもって、異論なし。
全体を通して、深く考えさせられる知的な一冊でした。
『森の生活』 著 ヘンリー・デイヴィット・ソローにも似た感じがある。
このジャンルが好きな人には、おススメしたい。