2026年、京都で大暴動が起きる。
京都暴動(キョート・ライオット)──人種国籍を超えて目の前の他人を襲う悪夢。
原因はウイルス、化学物質、テロでもなく、一頭のチンパンジーだった。
未知の災厄に立ち向かう霊長類研究者・鈴木望が見た真実とは・・。
吉川英治文学新人賞・大藪春彦賞、ダブル受賞の超弩級エンタメ小説。
そもそもこの小説の発想は、どこから来たのか、の質問に著者は。
「マイケル・ジャクソンのバブルス君ですね」と答えた。
バブルス君とは、マイケル・ジャクソンと一緒に暮らしていたチンパンジーのこと。
マイケル・ジャクソンのバブルス君を見る、自身の子どもというか家族というか、不思議な距離感に、なにか端を発するものを得たそうです。
主人公の鈴木望という研究者は、DVの被害者という過去を持っているが、それはマイケルのジャクソン5時代のイメージを重ねているらしい。
彼を追うケイティという女性は、マイケルが整形してどんどん女性的な見た目に近付いていくところ。
パルクールのトレイサー、シャガという少年が体現しているのは、人類史上最強のマイケルのダンスだという。
要は「3人のマイケル・ジャクソン」が集まって、人類の困難に立ち向かっていくって話なんですよ。って、著者は講談社の恩田睦氏とのインタビューで答えている。
いやいやいやいや、そうだったの⁈
ただ本を読んだだけでは、そんなこと微塵も感じられない世界観だから、やはり刊行後に著者の思惑に触れることは、面白感が1層2層と重層になっていく。
著者インタビューに目を通すことは、マストです。
話は戻り、この作品の面白いところはミステリーに独自哲学をぶつけたセンス。
何万年もの進化の間に、ヒトと類人猿を決定的に分けたものは何なのか。
ホモサピエンスとチンパンジーの違いの一つに、言語を扱うがある。
言語の起源は、わたし、あなたのこの認識の獲得にあり、ホモサピエンス以外の動物は、あなたとわたしの主観客観の認識ができないらしい。
ホモサピエンスが人の種族の中でもなぜ生き残ったのか、ネアンデルタール、なんとかかんとかは絶滅していったのに。
その謎を科学的見地から考察し、ミステリーに落とし込む手腕が、とんでもなく逸脱していて、こんなに分厚い本なのに3日で読了した。
久々に自由時間を全て注ぎ込む気になった一冊である。
著書 『Ank』 著者 佐藤究